ころ

ブッツァーティ『神を見た犬』

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)

神を見た犬 (光文社古典新訳文庫)



堀江敏幸の小説で大事な位置にいたKの作者ですね。
コロンブレという名前で登場。



まいった。
皮肉っていたりつまずいたり醜かったりするのに
かくも人間は美しい。
美しいと思えてしまう。
危険なことに戦争という行為を描いたストーリーですらも
ブッツァーティの小説だと酔いがまわったように
嫌悪感を抱く事も忘れてふらふらとさまよってしまう。



神や聖人があたかも人間のように登場するのもかわいらしい。


わたしがだぃっすきなテーマの
天国から下界に降りる天使(ここでは聖人)が
希望と苦しみのその全てを喜ばしいと感じる様に泣きそうになる。


まさにいま人生のすべてがこぼれ落ちてしまうかもしれない人々が
失うことを恐れる何気ない日常の描写。
「朝、ベッドで目を覚まし、一日の最初の煙草をふかすこと、
市電、イルミネーションで飾られたショーウィンドウ、
工場やオフィスでの仕事、散歩、子どものわがまま、
リバイバルの映画、おろしたての靴、
トトカルチョ、土曜の晩・・・」
美しさの片鱗もない言葉たちが並んでいるだけなのに
きらきらしたものに思えてしまうのがすごい。



言葉巧みに攻撃をしかけてくる知り合いに
芸術の意味と意義を必死でまくしたてる人物。
電車の中で泣くかと思った。



大好きな本をきっかけに大好きな本がもう1冊増えるなんて
とんでもなくすごいことでなんたる幸せだ!と思う。